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SHOWROOM前田裕二社長と池上彰さんの『深層NEWS』での対談を見ていて、たくさんの気づきを得ました。やはり、前田社長といえば、抽象化。この抽象化の概念を、大阪人らしく、お笑いに当てはめてみようと考えました。抽象化が最も活かされるのが、「たとえツッコミ」なのです。

では、抽象化と「たとえツッコミ」には、どのような関係があるのでしょうか……?
前田社長は対談の中で、こう言っておられました。

説明能力が高い人というのは、抽象的な命題を知り得てるという以上に、具体的に紐づけるエピソードの数が多い。すなわち、抽象化している回数が多い。あらゆる具体を見た時に抽象化をたくさんしている人ほど、逆に抽象を話した時に、具体に落とせる可能性が上がる。

そうです! たとえツッコミの上手い人というのは、「あらゆる具体を見た時に抽象化をたくさんしている人」と言い換えられるのです。

それでは、たとえツッコミの構造を分解してみましょう。(←こういうことやる奴、だいたい面白くない奴、というツッコミは控えていただけますと、不幸中の幸い、これ極まりないぞ、ということで)

たとえツッコミにはまず、「たとえのストック」が必要です。瞬時にたとえツッコミを繰り出すための、ネタとも言い換えられます。

どのようにストックするかと言いますと、具体を見た瞬間にそれを抽象化。それを脳内にストックしておくだけです。簡単なようですが、量が勝負です。あと、多岐に渡るジャンルでストックを形成するというのも重要なポイントです。
なぜ、多岐に渡るジャンルでのストックが重要か、というのは後述します。

「たとえツッコミをする対象」が現れるとします。要するに、ツッコまれる側の人ですね。これは具体です。その瞬間に、数多脳内にストックされている抽象の中から、ツッコミの対象となる人にマッチするものを選定し、それを具体化し、ツッコミを行います。

ここで重要なのは、相手にふさわしい=最も笑いが増幅されるであろう具体に落とし込む、ということです。

では、これまでの一連の流れについて、例を挙げてみます。

が、お笑い論を語るとき、例を出した瞬間、確実にスベります。笑いの下準備や場の空気感がない中での例の提示になりますので、まったく面白くありません。お笑いというのはライブ感あってのもの、というところでご了承くださいませ。

仮に、「傘」を見るとします。このアイテムだけで、大量の抽象化を行います。実際は抽象化、というよりも、妄想、に近いのかもしれませんが、そこはビジネス論とお笑い論の差異という点で、ご勘弁いただけますと幸いです。

傘を見て、「差していると濡れない」「差さないと濡れる」「置き忘れることがある」「家から持って出るのを忘れることがある」「ビニール傘は安っぽく見える」などなど、大量に抽象化しておきます。

で、ツッコミの対象が現れます。仮にそれが、カウンターで横並びで食事している、ぽっちゃりした友人だとします。彼は太っているからか、食事をしながら顔面に大量の汗をかいています。それを見たあなたは、たとえツッコミをしたいと思う。そこで、脳内の抽象ストックを巡回し、「傘」「濡れる」「家から持って出るのを忘れる」をピックアップするとします。

「いやいや、家から傘持って出るの忘れて、びしょびしょなってる奴か!」

という、たとえツッコミが成立します。(あっ、もちろんこれはテキスト主体の解説ですので、笑いは起きませんのでね)

抽象としてストックされているものたちが、彼に対するたとえツッコミという形で具体化されるわけです。たとえツッコミの一連の流れ、具体から抽象、そして具体への落とし込みの流れはこういうイメージです。

で、さらに大きな笑いを獲りに行こうとする場合、以下の3点を意識してみましょう。

1点目は、その具体に対し、より具体的イメージを想起させるフレーズを盛り込む、という点です。

たとえば、「雨かよ!」というツッコミよりも、「季節外れの雨かよ!」というフレーズのほうが、笑いを誘います。雨季ではない時期に、前述の友人が大量の汗をかいている場合は、こういったツッコミがハマりますね。

もっともっと詳細なイメージを想起させるのも効果的です。たとえば、「店長不在のバイトの控室か!」とか「10年間近く会ってなかったツレと再会した瞬間の気まずさか!」とか。淀みなく口からこういうフレーズが出るようになれば、狙って笑いを獲りにいけることでしょう。

2点目は、ツッコミの対象物と引っ張ってくる抽象のジャンルやカテゴリは、できるだけ遠いほうがいいという点です。

ダメなパターンから言いますと、食べ物を食べ物でたとえてしまうパターン。これは、表現としても面白みを欠いていますよね。同様に、たとえツッコミもその距離が近いより遠いほうが、笑いは大きくなります。

この理由はきっと、ツッコまれている相手やそれを聞いているオーディエンスたちが脳内で、ツッコミの対象である具体と、ツッコミによって具体化されたイメージとを結びつけようとします。双方の距離が近いと、容易く結び付けられるため快感が少なく、距離が離れているほど、結びついたときの快感が大きいのではないだろうか。その結果、笑いの量が増幅されるのでは、と考えます。

友人の男性が何かを見て、「これめっちゃ青いやん!」と大げさに感想を述べたとします。そこで仮に、「沖縄の海見たときか!」とツッコむとします。青と海、イメージの距離は近いと言えます。
そこで、「いや、ガガーリンが地球見たときの感想か!」と言うほうが、イメージの距離が離れているのが分かりますでしょうか。(実際には、ガガーリンはその名言を言っていなかった説もありますが……)

そして3点目。ツッコミの対象及びオーディエンス、要するに、笑いを獲りにいく対象のうち最大公約数が脳内で描画できる具体に落とし込む。これが重要です。

お二人の対談でも前田社長が、「伝える相手によって具体的に紐づけるエピソードを変える」ことの重要性を説いています。仮に小学生ならポケモンの話になぞらえて説明する、という方法ですね。

実は、たとえツッコミではこれがかなり重要なポイントとなります。

たとえツッコミのたとえは、受け側の脳内でたとえが描画されてこそ、瞬間的な共感を生み、笑いが生じるという性質を持っているため、描画されなければ笑いに結びつかないのです。

そのため、笑いを獲りにいく対象のうち最大公約数となる年齢層は? 男女比は? それらのターゲットに多い趣味嗜好は? 流行っているものは? その世代においてマニアックとされるものは? などなど、細かいターゲティングを行うことが重要です。

その場に居合わせた人たちを眺め、これらのターゲティングを瞬時に行い、どの引き出しから抽象を引っ張り出してくれば笑いが最大化するかを判断します。そして、実際にたとえツッコミを行います。

細かなターゲティングが難しい場合は、その場にいるターゲットのうち、最も笑い声が大きい人やよく笑う人を基準にして、それらを判断してもいいかもしれません。その人が笑いの広告塔となり、場も賑やかになりますし、意味がわからなくとも笑い声につられて自分も笑ってしまう、という人も出てくるでしょうから。

これら3つのポイントのうち、2・3を網羅するためには、前述で言及したとおり、多岐に渡るジャンルで抽象をストックしておかないと、最適なたとえツッコミを引っ張ってくる、要するに抽象から具体に落とし込めなくなってしまうのです。

たとえツッコミの一連の流れに加え、これら3つのポイントを意識する。もちろん、あとは「間」であったり「テンポ」であったり「声の抑揚」「キーの高低」など、笑いを生むための要因は複数あるので、概念だけを覚えても……というところは否めません。ぜひ、概念を踏まえたうえで、体得を目指してください。

以上、長くなってしまいましたが、お二人の対談を拝見し、前田社長の説く抽象化の概念に気づきを得て、それをお笑いの「たとえツッコミ」の構造に当てはめてみた考察でした。ありがとうございました。