『たいじょうぶ。時計の針はかならず重なるから』

この言葉に、どれだけの人が救われるだろうか。この言葉が意味するものを心で感じ取ったなら、どれだけの人が救われるだろうか。

世間一般的に、「子どもから大人まで楽しめる」という表現が用いられることがある。要するに、子どもから大人まで楽しめる、そんな楽しみの幅があるっていう意味で。でも、本作を読了して思った。

「子どもが楽しめるものは、大人だって楽しい」と。大人は楽しむことに、あーじゃこーじゃと、説明を求めるけれど、直感で楽しさを感じられる子どもはすごいし、だからこそ、子どもが楽しいものは、大人だって楽しい。

本作は「にしのあきひろ作品史上、もっとも残酷で、もっとも美しい物語。」と評される。

確かに、生きることは残酷。だけれど、生きることはやっぱり美しい。あなたの胸の中にもきっと、本作の約束の時計台のように、思いが報われず、11時59分で止まってしまった時計があるはず。本作はそんなあなたのそばに、「時計の針はかならず重なるから大丈夫」と、そっと寄り添ってくれる作品です。

チックタック 約束の時計台
にしの あきひろ
幻冬舎 (2019-04-18)
売り上げランキング: 13

【物語】
町のはずれにあるホタルの森の中に、こわれていないのに11時59分で止まっているふしぎな時計台があります。
その時計台には、ヘンクツジジイのチックタックが住んでいます。
もう何年もまえ、チックタックがもっと若かった頃、ここに、ある孤児の女の子が訪ねてくるようになりました。彼女の名前はニーナ。
チックタックとニーナは、夜12時の鐘の音を、いっしょにこの時計台で聞くことを約束します。
しかし、その約束がかなうことはありませんでした。
なぜなら、その森に「火の鳥」がやってきたからです。
――どうして時計台は11時59分で止まってしまったのか? その理由がわかったとき、必ず涙します。

言葉って、短ければ短いほどその破壊力を増すと思う。

多弁であれば、話者や著者の考え方を詳細にまで示せるため、ズレを生むことなく伝えることができる。一方、もしも短い言葉で伝えるならば、受け手はその意味を理解する工程のいたるところで、補完や解釈を行う必要がある。

でも、それこそが、自分自身の人生や生き様、考え方などのエッセンスを注入することで、結果的に自分だけの思いが作品にプラスされ、作品が個人用にカスタマイズされる。それこそが、破壊力。

そんな風に思う。

西野亮廣氏の肩書のひとつは絵本作家。もちろん本作も絵本。圧倒的な画力に対し、伝える言葉は子ども向けにも囁かねばならないので、絵ほど詳細微細に書き込むことはできない。

それが、とてつもない破壊力で心に挿し込んでくるんです、本作。

そこに美しいグラフィックが添えられている(物書きとしては、やはり言葉を主として見てしまうものでして)もんだから、もう琴線に触れて触れて。中盤から後半にかけては、涙のキラキラが描画の美しさを、いい意味で邪魔してしまい。

特に後半から終盤にかけては、終結に向けて動く物語とグラフィックの壮大さ。そして、ラストを迎えるその刹那には……。っと、ここからは、ご自身の琴線を響かせながら、本作を手に取りお確かめください。

何かを変えたいのに、自分を変えたいのに、報われずに涙する。西野亮廣氏のこれまでの苦難を知る人は多いかも知れないけれど、人知れず、そんな涙を流し続けている人はたくさんいると思う。

個人的な感想では、本作における残酷はそんな報われない涙で、美しさはそれが報われた瞬間の笑顔。
別に、大成功することだけが、報われるということじゃない。小さな成功だって、立派に報われた瞬間。それを積み重ねていけばいいと思う。だから、積み重ねるようにして、時計はいつまでもクルクルと回る。何度だって笑顔になれるように。

誰かに背中を押してもらいたいと感じている人たちに、ぜひ読んで欲しい名作です。