旅の目的を、非日常としている人も多いはず。ただでさえ脱日常している空間の中、次々に珍妙な出来事が起こったとしたら……。それはもう愉快で痛快な体験でしかない。

で、それを味わわせてくれるのが、時にショートショートだったりもする。

ショートショートの作品が読みたくて、森 絵都の『ショート・トリップ』を手に取る。森 絵都の作品を読むのは初めてなので、他の作品の文体と比較したわけじゃないけれど、本作の文体はすごくドライで淡々と珍妙なストーリーを語る語り部のような印象を受けた。

語り部の印象とは逆に、景色の描写などがとても美しく、どちらかというと、登場人物たちの感情のほうが無機質な感じがして、すごく新鮮だった。ページを見開いてみると、感情部分がモノクロで、風景描写がカラフル。そんな二極化した映像が、脳内に飛び込んできた。


ショート・トリップ (集英社文庫)
森 絵都
集英社
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旅をめぐる48のショートショート集
珍妙なステップを踏みながら〈刑罰としての旅〉を続けるならず者18号。「眉毛犬ログ」が世界中を旅したあと目指した先は? ユーモア溢れる、48の旅をめぐる小さな物語。

本作中、『大きなダディと小さなフランツェ』という作品がある。

学校から「お話を作って来なさい」という宿題を受けたフランツェは、創作した物語をダディに聞かせる。
先生から「物語の登場人物には個性が大切だ」とアドバイスをもらった、と語るフランツェに対し、個性とはひと言で言い表せるものじゃない、君の先生はまだお若いなと、持論を展開するダディ。

小さなフランツェの創作の主張に対し、どこまでも持論でそれを論破しようとする大きなダディ。海外作品のように淡々としたテンポで進行しながら、最終的には、どこか日本的な滑稽話として結ばれる本作がとても愛らしい。

旅をテーマとしたショートショートということもあり、さまざまなシチュエーションを楽しめるというわけじゃないものの、本作に漂う一貫した空気感が、どこかひと続きの連なりを感じさせる。

単発単発で味わうショートショートの中にありながら、48編でひとつの作品、という印象も受けた。作品ごとに挟まれる挿絵もまた、その独特な世界観をビジュアル的にラッピングしてくれている。

自宅に居ながら、旅先で巻き起こる珍妙な出来事に、クスッと胸を躍らせる。そんなショートショートの秀作が詰まった本作をぜひ。