人は誰しも、自分だけは他の人とは違うと思いがち。でも、あなたの目に映る他人たちも他人たちで、自分だけは他人とは違うと思っているだろうから、人はみんな一緒、得てして自分だけが他人とは違うと思いがち。

あなたの目に映る他人たちのすべてが、いかにも何も考えていないような、いかにも毎日を飄々と過ごしていそうな、いかにも「エキストラ」な感じが滲み出ていたとしても、彼らは彼らで自分のことを、特殊で特別で他人とは違うと思い込んでいる。だから、人はみんな一緒、得てして自分だけが他人とは違うと思いがち。

という発想を捨ててみる。
で、こういう発想に変えてみる。

人にはもともと、他人たちのそれぞれを区別するほどの力なんてない。長年付き合っている心と身体、自分についてはそりゃ何から何までわかるはず。でも、赤の他人のことなんてわかるはずがない。親や家族、恋人のことですら、わかったつもりでその実、あんまりわかっていないはず。

だから、他人たちのことを区別することなんてできないから、自分と他人たちは違う、という答えでまとめてしまう。他人たちがいつも、飄々としているように感じてしまう。自分だけが孤独なように思えてしまう。

そこでこの発想をさらに昇華させてみる。

自分だけは他人たちとは違うという発想は、万人の心にフィットする。その類の孤独感はみんな、心のどこかに隠し持っているもんだから、だからスポッとはまる。孤独を歌う唄が支持されるように、孤独を描いた物語が愛されるように。

で、この発想を収束させてみる。

なんて言ってはみたものの、やっぱり孤独は孤独だし、殊更に自分だけが悲しく思える日もあって、頭じゃあれこれ理解はできていても、やっぱり寂しいもんは寂しいもんだ。心は頭ほどお利口さんじゃないから、いつでも過去はよく見えるし、過去に答えを求めている限り、現実からも未来からも逃げられる気がして安心できる。

あの日の彼は元気だろうか。あの日の君は元気だろうか。今日という時間を泳ぎながら、あの日の彼やあの日の君を探している人たち。

やぁ。素晴らしい世界は、今、目の前にあるんだぜ。


左目に映る星
左目に映る星
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奥田 亜希子
集英社
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小学5年生の時に出会った奇跡のような存在の少年・吉住を忘れられないまま大人になり、他者に恋愛感情を持てなくなった26歳の早季子。恋愛未経験で童貞、超がつくほどのオタクで、人生をアイドル・リリコに捧げる宮内。どうしようもない星たちを繋げるのは、片目を閉じる癖、お互いが抱える虚像。第37回すばる文学賞受賞作。

昔の小説というものは、作家の書き方の癖や、徹底的な人物描写において、物語に世界観を生んでいたと思う。けれど、近ごろの小説では、「とある状況」もしくは「とある設定」という点から、世界観が生まれているように感じる。

本作、個人的にすごく独特の世界観を感じた。

物語そのものは別に奇抜なわけじゃない。特殊な人物が出てくるわけでもない。作家の癖の強い価値観を押し付けられるわけでもない。それなのに、この独特の世界観。没入感とはまた違う。読了時に、「あぁ、もうちょっと読んでいたいな」と思うような感覚。「もうちょっとだけこの世界に浸っていたいな」とごねたくなる感覚。

過去のとある価値観を、果てしなく現在に持ち込むことで、うまく現在を生きられない、否、うまく現在を生きられないと感じている、主人公の織りなす物語。

その主人公が、とある状況に置かれ、とある設定のなかで生きる。この状況や設定こそが、作者の醸し出す世界観なんだと思う。そして、主人公でもなく、その他の登場人物たちでもなく、この世界に感情移入し、まだ引き続き居させて欲しいと、ごねたくなる感覚を抱かせる。

それはどこにでもあるような状況なのかもしれないし、誰にでも起きる設定なのかもしれない。でも、そのなかに、主人公や登場人物たちの感情の揺れや、昨日とは違う彼ら彼女らの決断が生まれる。それこそが、現代小説の醍醐味なのでは、と、最近感じるようになった。

本作、最後へと向かうにつれて、その独特な世界観すらも薄まっていき、読者のほうにどんどん近づいてくる。不安定で不均衡で不協和音が続く独特な世界観から、見事、読者を平坦な地へと着陸させてくれるかのようなラスト。そして、それと引き換えに、読者は物語を読み終えさせられる。

小説というのは、主人公の成長を描くものだ。冒頭の主人公と末尾の主人公は変化していなければならない。読者というのは、その主人公の変化を楽しむのだ。

本作、確かに主人公に変化が起こる。それは成長なのかもしれないし、他の何かかもしれない。成長した結果、主人公は本作を終えるかもしれないが、読者は別に成長しなくたっていい。もうちょっとこの世界観に浸っておきたい。そんな風に感じさせてくれる愛々しい作品。