男兄弟しかいない、もしくはひとりっ子の男性なら、一度はこんな妄想をしたことがあるだろう。
自分に姉がいれば。自分に妹がいれば。自分に女姉弟がいれば、と。

ただ、そうなると血のつながりを意識してしまう。たとえ妄想だとしても、現実の掟はでき得る限り守りたい。そうなるとだ、従姉や従妹へと妄想は突き進んでしまう。(両親の再婚によってある日突然、血のつながっていない姉もしくは妹が現れる、というパターンもあるが)

ひょんなことから、従姉と同居することになった。それまで男兄弟しか見てこなかった俺が、同じ屋根の下、年の近い異性の呼吸を感じながら生活する。

従姉の部屋には、従姉の体温が。食卓には従姉が使った食器が。お風呂のお湯は従姉の浸かったもの。トイレだって、洗面台だって、脱衣所だって、そこかしこに従姉の存在を感じる。

そのうえにだ、従姉は俺に強い興味があり、俺の肉体にも強烈な興味を示してくる。従姉は年上だ。俺は年下だ。従姉の命令には従わなきゃならない。俺を求めてくる従姉。逆らうどころか、その誘惑に全身まで溺れたい俺。

かたく目を閉じた俺の唇に、従姉の柔らかく湿った唇が重なる……!

なんて妄想、男なら誰しもが抱いたはず。叶うわけがないと知りつつも、妄想のなかでその世界をどんどん広げ、そして、どんどんディテールを描いていく。
叶わぬ妄想と知りつつも、朝の目覚めとともに、従姉の「おはよう」が耳に飛び込んでくる映像が脳を埋め尽くしていく。


魅惑の女子大生従姉 (リアルドリーム文庫 16)
伊吹 泰郎
キルタイムコミュニケーション
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大学合格とともに従姉の家に居候することになった大樹は、初日から甘く誘惑される。家で、学校で、公園で、関係は発展してゆく。

官能小説、2作目を体感してみる。

本作、ある日を境に同居することになった従姉との淫蜜溢れる甘く濃ゆい生活が、どこまでもどこまでもエスカレートしていく。男が抱く妄想を、たったの1ミリも減衰させることなく、描き切り、叶え切っている。

従姉と同じ大学に通うため、従姉の住む家に同居することに。そして、初日から従姉の誘惑を受け、その誘惑がどんどん過激化していき、当初は受け身だったものが、いつしか能動的になっていき、1滴残らず愛欲を絞りきるストーリー。

従姉と濃密に愛を交わす描写はもちろんのこと、ひとつの作品でここまで妄想を叶え切る、その豪快さ、豪腕さ、潔さに感服してしまう。

前回がはじめての官能小説だったため、本作を読むことで比較対象ができた。性描写が中心の官能小説にあって、どのように他の作品と差別化を図るのかといった謎は、あっさりと解明できた。

妄想を叶えてくれる対象、すなわち、愛欲を満たしてくれる登場人物が変われば、その時点で、まったくの別作品に化けてしまう。

すなわち、登場人物の人物設定ひとつで、作品は無限に広がる。夫の浮気を理由に、他の男との情事を求める人妻と、ある日突然同居することになった従弟に、麗しい野獣の如く覆いかぶさる女子大生従姉とでは、妄想の方向性がまったく違う。

本作、女子大生従姉が淫猥な妄想を叶えてくれるなら、こんな風な顛末になるのだと、未知なる夢物語の扉を開いてくれる。

一般の小説なら、主人公を悩ませる葛藤や苦悩、嫉妬や軋轢、乗り越えなければならない苦難を、主人公の前にそびえ立たせなければならない。が、官能小説では、そんな個人的な事情にページを割いている暇はない。とにかく貪る。とにかく舐る。とにかく漲る。そして、昇り詰め、昇り詰め続ける。

脳髄を突き刺す女子大生従姉との快楽は、ひょろひょろの妄想じゃ追いつかない。精神的にも肉体的にも果てるまで、描かれる妄想に溺れ尽くさなければならない。

男にとって憧れの妄想である、美人の従姉との同居生活という設定。その設定であなたが創り上げる妄想と、最果てまで性で埋め尽くされた本作の妄想と、どちらのほうが溢れ出す愛欲を描けているか、勝負してみるといい。負けを認めたとしても、淫らな女子大生従姉は、底知れぬ欲求を満たしきるまで解放してはくれないだろう。