男の果てない願望、それは、あり得ない設定のなかで性を貪ること。
それはきっと、少年の頃からすべての男が抱えている願望といっても過言ではない。

ピザの配達に訪れた家の玄関に下着姿の人妻が現れる。旦那が出張中だから、よかったら上がっていかない? と誘われ家の中へ。性生活に不満を抱く人妻とそのまま情事。

一人で旅をしている途中、とあるホテルに宿泊する。誰も訪れる予定のない自分の部屋のインターホンが鳴る。出てみるとそこには、バスローブ姿の美女が。ひょんなことから鍵を室内に置いたまま、バスローブで部屋の外に出てしまったらしい。しばらくの間、部屋で休ませてくれないかと頼み込む美女。どうぞと中へ招き入れ、あろうことかそのまま情事。

一人カラオケを満喫していると、突然ドアが開かれた。ふと見上げると、そこには泣き崩れた美少女が。ついさっき彼氏にフラれたと涙をこぼす彼女。倒れ込むように部屋に入ってきた彼女を慰めるうち、気づけば濃密な情事。

挙げだすとキリがない。男は少年の頃から、こんなことばっかり考えて生きているんだから。

そして、情事はより濃厚なほうがいい。できれば、男と女がひた隠して生きる淫猥な願望のすべてが叶えられる情事がいい。あり得ない設定のなかで、あり得ない情事に溺れる。

官能小説のなかには、そんな世界が広がっていた。
そして官能小説は、少年の頃から思い描き続けた、あり得ない設定のなかで性を貪る願望を、淫蜜の湿りでねっとりと包んでくれた。


人妻の別荘 (二見文庫)
霧原 一輝
二見書房
売り上げランキング: 125,577
散期の別荘に忍び込んだ
男が目にした
人妻の恥ずかしい姿──
読み出したら止まらない、書き下ろしノンストップ官能!

会社を辞め、無一文状態で秋の別荘地にたどり着いた吉崎はあることを思いつく。「シーズンオフ期の空き別荘に泊まればいい」。
忍び込んだ別荘で、女性の下着や持ち主の映っているセックスビデオを堪能する彼だったが、ある日、物音がし、入ってきたのは、
持ち主の妻らしく──。人気作家による、書き下ろし官能エンターテインメント!

官能小説を、人生ではじめて読んだ。

ある作家さんが、物書きの生き方として、ポルノ小説家になることを強く強く推されていらっしゃった。その教えに傾倒。苦手意識のあった官能小説に手を伸ばしてみた。

本作、冒頭に書いたように、あり得ない設定が次から次へと続く。シーズンオフ期の空き別荘に忍び込んだ結果、美人の人妻と出会えるかね。その上、愛欲を貪れるかね。そして、愛を深め合えるかね。と、半ば距離を感じながら読み進めていた。

結論からいうと、最終的には、どハマリした。

官能小説には、無駄なストーリーは不要。セックスシーンが中心で、ストーリーなんざオマケ。読者はみな、濃厚なセックスシーンを味わうために、官能小説を手にするのだ。そんな予備知識はあったものの、怒涛のようなセックスシーンの嵐に、完璧に圧倒されてしまった。

ストーリー性が薄いことを予備知識として蓄えていたため、読了後、もしかして満たされないのでは? と不安な気持ちを持っていたが、最後の最後に打ちのめされた。まさか、ストーリーにもしっかり没入している自分がいた。主人公と人妻の恋愛を心の底から応援していたのである。

彼らの恋愛を妨げる阻害要因に、彼らと同じ温度でヒヤヒヤし、彼らの恋慕の情がうまく成就するようにと願う。ストーリーは二の次で、セックスシーンで魅了する官能小説とのことだったが、しっかりとストーリーでも魅了されてしまった。

アダルトDVDだと、さまざまな撮影テクニックや演出はあるが、やはり一方的に行為を見せつけられているだけのような気がする。濡れ場の多い映画やドラマだと、そこまで愛欲を貪る行為そのものにフォーカスはされない。

しかし、官能小説は違った。セックスシーンにたっぷりとしたボリュームを割けるため、行為そのものをこれでもかと描写できる。そして、活字を使って心理描写もしっかりとできる。それらが組み合わさったとき、性の深みを堪能することができる。

官能小説初心者のため、ストーリーが1.5、性描写が8.5くらいのボリュームを占めるこのジャンルにおいて、作品ごとの差別化はどうやって図るのだろうか。かなり興味がある。
官能小説入門としては、かなりディープな作品だったように思うけれど、それだけに、官能小説がなんたるかを知ることができた。

あり得ない設定に加え、愛する人を思うがあまり痛めつけられる男の心を、枯れることなく滴る婬蜜とともに貪りたい人におすすめの官能小説です。