物語を読み進めて行くと、どんどんとそのスピードがあがっていくことに気づくことがある。
読みはじめは、まだその世界に慣れていない。だから、景色の描写を脳内で再現したり、登場人物へのシンパシーを感じたりに多少の苦労をする。

ところが。

それに慣れてしまうと、どんどんと読み進めるスピードがあがる。
そして、作家が書くよりも手前で、「(登場人物の)こいつだったら、きっとこう言うだろうな」とか、「物語はこういう方向に進むだろうな」とか、無意識のうちに期待しはじめる。

最初は期待程度だったものが、さらに物語に没入すると、それが決めつけに変わる。
「絶対にこう言う!」「絶対にこうなる!」っていう具合に。

そこでだ。作家はこう思うんだ。
その決めつけを華麗に裏切ってやろう。

ユーモアたっぷりに、歯切れよく、豪快に、読者の決めつけを裏切る。それもほんの短い物語の中で、それをやりきる。

人間関係なら、裏切られた後は、とても不快な思いをする。
ショートショートなら、裏切られた後、とても愉快な思いができる。
むしろ、裏切って欲しくて、ショートショートを読んでいる。

ショートショートは、やっぱりおもしろい。


サキ短編集 (新潮文庫)
サキ
新潮社
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ビルマで生れ、幼時に母と死別して故国イギリスの厳格な伯母の手で育てられたサキ。豊かな海外旅行の経験をもとにして、ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい後味を残して、読者の心に焼きつく。「開いた窓」や「おせっかい」など、日本のSFやホラー作品にも多大な影響をあたえた代表的短編21編。

ショートショート『30の神品』を読み、その中で気になった作家、サキの短編集を読んでみた。

もともと、翻訳された海外の文学を読むのが得意なほうじゃない。登場人物の名前がスッキリと覚えられず、読んでいても別の人物と勘違いしながら読んでしまうこともある。
また、主語や述語の並び順に違和感のある訳され方をすると、文章の読解にすごく労力をかけてしまい、肝心の物語が頭に入ってこなくなる。

という苦手意識もありつつ、サキ短編集。

翻訳に加え時代背景の予備知識がないために、読み込むのに少し苦労した作品もあったものの、多くがとても読みやすく、切れ味のいいショートショートばかりで満足した。

サキのショートショートは、決して大掛かりな仕掛けがあるわけではない。読者と呼吸を合わせながら、その呼吸のタイミングが合ったところで、キュッとそれを捻る感じ。
たとえば、星新一のショートショートが時に、心に鈍痛を食らうような衝撃を受けるのに比べ、サキのそれは、切れ味のいいナイフで心を斬られるようなイメージかな。

僕個人としては、日本人と外国人はまったく違う感性をしていると思いっている。同じ人間なんだから根本は一緒だよ、と説いていただくこともあるけれど、それは分かってる、それは分かってるけれど、やっぱり違うんだよな、というのがある。

でも、サキ短編集を読んだときに感じたのは、たとえば滑稽なオチをつけて痛快さを楽しんだり、人をちょっと小バカにしたような笑いで和ませてみたり、そういう感覚の部分で、日本の作品と変わらぬものを発見した。

やっぱり、みんな、こういうのが好きなんだなぁ、と。

絵画や音楽などの場合、歴史的な文化背景や人の移動によって、作品の中にどこかしら似た感性を発見することがある。それは、物理的に何かが移動して何かが影響を与えて、その結果、何かの作品に似たものが反映されたはず。

でも、サキ短編集を読んで感じたものは、そんな大それたものじゃない。きっと、人間のDNAの中に予め組み込まれている、それも世界中の人たちに等しく組み込まれている何かが反応したんだと思う。

関西弁で言うならば、「結局、世界中のみんなも、笑いのツボ、一緒やん」である。

そう考えると、本作、テクニックが駆使され、それを頭が理解して笑う種別のものでは決してなく、人間味あふれる感性に心が反応し、笑いが生まれる。そんな感覚が味わえるショートショートばかりが収められた良書。

日本の作家のショートショートしか触れたことのない人に、おすすめの一品。