人の一生は、時間にすると、それほど短いものではないだろう。
やりたいことの量だとか、挑みたいことの量だとかによって、人それぞれ、その長さの感じ方は相対的だろうけれど、時間にすれば、決して短いものではない。

で、一生を終えるその間際、自分の人生を総括し、物語を振り返る。仮にそれを、長編小説としてみよう。
そうすると、日々起こる出来事に、一喜一憂、泣き笑いしたり、驚いたり、驚嘆したり、そういったことのすべてを僕は、ショートショートだと考えている。

決して短くない一生の中にあって、ショートショートはたくさんあるほうがいい。
一生をかけて、屈強で巨大な箱をこじ開け、その中身を知ることが最終的な人の到達点だとしたら、目の前にある無数の小さな小箱を開けては、感情を揺さぶらせること、それは最終的な到達点に辿り着くまでの余興なのではないだろうか。そしてそれが、ショートショートであると考える。

大人になるにつれ僕たちは、時間がないことを理由に、いろんなことを諦めて行く。
たとえばこんな会話。
「まだ、バンドやってるの?」
「仕事忙しくて、そんな時間ないからね。もう、やってないね」
時間がないからできないらしい。

成功者はこう語る。時間は自分で作るものだと。
でも、僕たちの多くは、そんなに優秀にできていない。眠いときには惰眠を貪るし、飯や酒で満たされる時間も確保したいし、自慰行為の時間だって確保したい。そんなことをしていて、時間なんか作れるわけがない。

それに挑むために二時間かかる。でも、二時間もそれに費やせる時間的な余裕がない。だから、諦める。
じゃなくって、じゃあ、5分でできることはないかと考えてみよう。長編小説を読む時間はなくても、映画を1本観る時間はなくても、ショートショートなら読める。そして、その気さえあれば、ショートショートだって書ける。

もちろんショートショートを書くことは、そんなに甘くない。構成や展開、導入やオチなど、かなり緻密に練らねばならない。だから、そんな簡単に書けるものではない。でも、簡単に書き始められる。それが、ショートショートの最大の魅力。

現代の人たちはどうやら、そうとう時間がないらしい。携帯電話やメールに追いかけられて、24時間仕事とも臨戦態勢だ。仕事が忙しいからと、恋人に会う余裕のない人だっているだろう。

でも。たとえ恋人に会う時間がなくっても、ショートショートを読む時間なら、あるよ。
たった3ページ。たった3ページでいい。あなたの時間を割いてみて欲しい。人生の最終的な到達点に辿り着くまでの余興が、あなたを待っているから。


30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)

扶桑社 (2016-09-29)
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来たれ! ショートショートの殿堂へ。
第一人者が厳選した究極の30作!
ショートショート界の第一人者にして星新一唯一の弟子である江坂遊。
そんな選者が、数千、数万に及ぶ古今東西のあらゆるショートショート
作品の中から、一作家一作品のしばりで選出した、究極至高の30作。
星新一、筒井康隆、半村良、サキ、スレッサー、アシモフ……
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バラエティに富んだ珠玉の名品を取り揃えました。
これぞベスト・オブ・ベスト。
選者と謎の猫の案内に導かれて、あなたも「短い短い物語」の
魅力がいっぱいにつまった夢の世界で遊んでみませんか?

ショートショートのベストアルバム。どれもこれもが名作揃い。
ベスト版のラインアップに興奮し、夜通し酒を飲めるのは、何も音楽だけに限らない。本作のラインアップを見てもらえればわかる。これだけの有名作家の名作が連発することは、痛快で爽快以外の何者でもない。

1曲目は、ヒッチコック「クミン村の賢人」。
早速、異様な緊張感が漂う世界観に引き込まれる。笑いには緊張と緩和が肝とされるが、ヒッチコックのじわりじわりと首をねじ上げるような緊迫感の中には、緩和なんて不要。息継ぎもできぬまま、ラストのオチへ。日本の作家のショートショートとは、やはり違う何かを感じる。

日本の作家も、阿刀田高、星新一、筒井康隆、赤川次郎など、自分が愛読する名作家の作品が並ぶ。

15曲目、これまで読んだことのなかったイギリスの作家、サキの「開いた窓」。
LPでいうところの、A面のラストといったところか。
本作では、ショートショートの新しい感覚に触れることができた。翻訳文だからそう感じさせる部分もあるのだろうけれど。
オチに支配された登場人物たちの佇まいは、こうも落ち着かぬものか。こうも緊迫したものか。ほうらやっぱりオチに、してやられた。僕の中では、本作で最も衝撃を受けた海外の作品。

そして、22曲目、岸田今日子「冬休みに あった人」。
岸田さんが本を執筆していたことすら知らなかったため、本作に収録されているのが意外だった。
それはともかく、本作を読んだ瞬間、全身に強烈な鳥肌が立った。あまりにも興奮し過ぎて、逆に体が冷えて行くのがわかった。それほどに、衝撃を受けた作品。
役者さんということもあり、作品の描かれ方がドラマの語りのような感じを受け、新鮮。と思った矢先、強烈な展開。長編小説で、じっとりどっぷりと没入させられた後に受ける衝撃とは、スピードも破壊力もケタ違い。静かで優しい物語の中にあって、これほどのラストを描けるなんて、やはりショートショートの可能性は凄まじい。本作を体感できただけでも、この本を手に取ってよかったと思える。

本作にビートルズの曲は収録されていないけれど、アシモフの作品は収録されている。
吉田拓郎の曲は収録されていないけれど、筒井康隆の作品は収録されている。
本作で収録された作家、作品、そして並び順など、酒でも飲んで語り合えば、大いに盛り上がれることだろう。そんな余興をくれるのも、ショートショートならではの魅力。

死ぬまでにぜひとも一度は読んでもらいたい、おすすめのベストアルバムと断言する。